1見て盗む
- ある日本料理店の若手は、先輩が別の人に教えている声に聞き耳を立てて、技を盗んでいた。教えてもらえる機会が増えた今こそ、その一歩先をやる、と話していた
- いちばん見なければいけないのは、鍋の中身だ。どこまで炒めたか、どれだけ入れたか、どこまで煮詰めたか
- 営業中は、答えだらけだ。人がやっていることを注意深く見る
なぜそうなるのか
微妙な味加減は、口では教えきれない。伝えることは結局できず、習う側がつかむしかない。見る力がある人は、教わらなくても毎日学べる。
2考え抜いてから聞く
聞くことは悪くない。大事なのは、どこまで自分で考えてから聞くかだ。考えて考えて、思いつかないところまで行ってから聞く。教える側も、答えではなくヒントだけを出す。
なぜそうなるのか
引き出しは、自分で開けないと自分のものにならない。ヒントから自分で考え、試して、おいしくなったものは、ずっと自分の引き出しとして残る。答えをもらっただけでは、次に同じ場面が来ても思い出せない。
3気づいた違和感は、その場で言う
ある若手は、スープのつぶつぶに気づいていたのに、先輩に意見を聞いて、自分の考えと違うやり方にしてしまった。あとで、自分の責任を果たせていなかったと振り返った。
今の若手は仕事に必要な会話が少なく、それでミスが起きる、と言うシェフもいる。自分がどう思われるかを気にして、話しかけるのがおっくうになっている。それでも、必要なことは口に出さなければいけない、という。
なぜそうなるのか
違和感は、時間がたつほど直せなくなる。その場なら、やり直す時間がある。言葉を発することも、責任のうちだ。また、厨房は自分たちだけで動いていない。ほかの人の鍋や材料を使うなら、先に声をかける。
4指摘されるうちが花
- シェフに何も言われなくなったらおしまいなので、指摘してもらえるうちに弱点をなくしたい、と話す若手もいる
- 先輩が味見をしているときに、台に手をついて聞かない。背筋を伸ばし、メモを取れるように構える
- 前回の指摘を直して出すこと自体が、ちゃんと聞いていたという返事になる
怒らない上司は、優しいのではない。基準を伝えることから逃げているだけだ。怒鳴るのではなく、事実と基準を伝える。それが育てるということ。ただし、その環境でつぶれてしまう人を無理に引き止めないのも優しさで、その見極めも上司の仕事だ。
なぜそうなるのか
指摘は、相手が時間と気持ちを使ってくれているしるしだ。優しくしてちゃんと教えないのは、いちばん優しくない。気づいたときには、取り返しがつかなくなる。厳しさの中身が「何を直せばいいか」なら、それは道しるべになる。
5毎日100%でやる
- 店の評価が決まる大事な日でも、出せるのは日々の積み重ねだけ。普段から100%でやっているか
- ある若手は、シェフに今日は特別な日だったかと聞かれ、いつもどおり毎日全力だと答えた
- 高い意識を持ち続け、体に染みこませる。そうすれば自然と差が出る
- 忙しいときでも、出す料理はいつも同じ質でないといけない。忙しいとできないなら、気持ちが負けている
なぜそうなるのか
「ここ一番」で急に力を出すことはできない。体が覚えていることしか、追いこまれたときには出てこない。
6練習は、前日では遅い
あるシェフは、修業時代にチャーハンがうまく作れず、1か月のあいだ、まかないでチャーハンだけを作り続けた。毎日先輩に食べてもらい、もらった助言を次の日に直した。今の作り方はそこから生まれた。まかないは、毎日だれかに食べてもらえる練習の場でもある。(カード:チャーハン)
- 大事なまかないの前の晩に試作した若手に、シェフは、前日に失敗しても1日では直せないのだから遅すぎる、と言った
- 1週間練習して、体が自然に次の作業へ移るところまで手順を染みこませた若手もいる。シェフはそこに本気の決意を見た
- 失敗したあと、次の機会までに自分のお金で練習用の鱧を買い、初めて先輩に教えを求めた新人もいる
- 鍋振りは家でも練習できる。包丁の練習はじゃがいもが向いている
なぜそうなるのか
頭で理解するスピードと、体が動くスピードは別物だ。体のほうは、くり返した回数でしか上がらない。
7自分の料理の価値を考える
あるシェフは、若手に自分のまかないの値段をつけさせた。若手の値段は6,800円、シェフの値段は1,200円のランチ。その差がいまの実力と目標の差だった。シェフが何より心配したのは、自分の料理の価値を一度も考えたことがないことだ。
なぜそうなるのか
値段を考えると、原価、練習の量、食べる人の満足、すべてを自分ごととして見るようになる。もっとおいしさに貪欲になり、お金をかけて自己投資をする。本物を食べに行くことも練習のうちだ。
8上に立ったら、伝える側に回る
- 上に立つ人の力は、自分では包丁を持たずに言葉だけで後輩を動かし、自分が作るのと同じ質を出せるかで試される。ある日本料理店のシェフによれば、自分の手で上手に作れる人は多いが、人に伝えてその人を上手にさせるほうがずっと難しい
- 伝えるときは前提から。「何を作るか、だからこうする」を先に言う
- 自分でやったほうが早いからと仕事を取り上げると、人は育たない
- 人に作業を任せたら、仕上がりまで確認する
- 怒る前に、なぜそうなったのかを聞く
- 皿をポジションの責任者と一緒に考えると、営業中も「自分の皿」として責任を持つ
- 後輩のミスは先輩が責任を取る
なぜそうなるのか
感覚でやってきたことは、自分の中では当たり前になっている。言葉にしないと相手には伝わらない。わからないことをわかるようにするのが、上に立つ人の役目だ。そして人に教えることで、自分も成長する。
85 新しい厨房では、丁寧さと姿勢を見られている
一流の厨房の試し働きで見られるのは、料理を一皿作る力ではなく、包丁仕事やオムレツのような基本の作業だ。見習いに求めるのは、速さより、教わったとおりに同じものを作れることだ。丁寧さのない速さがいちばんよくない。そして最後に問われるのは、何より働く姿勢だ。早く来て、遅くまで残って片付けを手伝い、仲間に敬意を払う人には、周りが喜んで教える。
9チームで働く
- 店の1日の売上を、チームで共有する店もある。自分の仕事が売上を生んでいると感じながら働いてほしいから
- 下から上がってくる人がいると、上の人も抜かれまいと焦り、店全体が上がる
- 採用で見るのは人間性と学ぶ姿勢。面接のあと、手伝えることはないかと自分から申し出た人を採った店もある。人間性に問題のある人が一人入ると、チームは簡単に崩れる
- まかないのあとにみんなが休めるよう、早く出す
10しんどさとの付き合い方
- つらいけれど、このつらさに慣れなければ料理の道ではやっていけない、と話す若手もいる
- 料理人はひとりで戦う仕事だ、と感じているシェフもいる。外から来た者として、自分を証明し続けてきたという
- 料理人を一度やめた時期があっても、年を重ねてから大きく認められたシェフもいる
- ある若手は、まかないがうまくいかなかったのに、それでも楽しかったと話した。子どものころ、目玉焼きが上手に焼けてうれしかった気持ちがよみがえったという
- 一度挑戦すると、次は少し楽になる
なぜそうなるのか
料理の世界の厳しさは、ほとんどの人が通る道だ。続けている人たちは、しんどさの中に「できるようになる楽しさ」を見つけている。
この章のまとめ
- 見て盗む。鍋の中を見る
- 考え抜いてから聞く。ヒントから自分で引き出しを開ける
- 違和感はその場で言う
- 指摘されるうちが花
- 毎日100%。ここ一番は日々の積み重ね
- 練習は前日では遅い
- 自分の料理に値段をつけてみる
- 上に立ったら、伝える側に回る
- チームで働き、チームで上がる